ドライアイは、涙の量が少なかったり、涙の質が悪くなって目の表面が乾いて、分泌物がでたり、結膜が充血したり、角膜表面に傷や色素が侵入するなどの異常が起こる病気です。重度になると失明することもあります。原因については大半が不明です。
涙は、目の上方の耳寄りにある涙腺で作られ、まばたきのたびに目を潤し、涙点という目の鼻側にある流出口から出て、鼻の奥へ流れます。
涙液の役割は、
(1)角膜、結膜の表面に潤いを与える、
(2)角膜に対する酸素や栄養供給、
(3)感染を防ぐ
などがあります。
涙液は3層からなり(図2)、角膜側から粘液層、涙液水層、 油層で、その厚さは0.01mmといわれています。粘液層は涙液最内層で、結膜の杯細胞(さかづきさいぼう)、 結膜上皮および角膜上皮よりムチンが分泌され、直接角膜表面 を覆っています。
ムチンの上に涙液水層がありムチンの存在により面張力が低下し広がりやすくなっています。
涙液の中間層である水層は涙腺および副涙腺から分泌され、最外層の油層は眼瞼縁のマイボーム腺(眼瞼縁の存在)より分泌されています。
厳密には涙液に明確な境界が存在するわけではありませんが、涙液層のいずれかまたは眼表面(眼瞼、角膜、結膜を含む)におこるさまざまな疾患により、涙液層が傷害されても正常な涙液を維持できなくなり、ドライアイに発展します。
ドライアイの分類(表)は病因別分類よりも、涙液の水層、油層、粘液層(ムチン)の各層における異常に分類してみると分かりやすいと思います(図2)。
涙液欠乏タイプのドライアイは、涙腺からの涙液の分泌能低下により水層が減少するタイプで、犬でよくみられるドライアイです。
涙液の油層はマイボーム腺より分泌され水層の蒸発を抑制しています。
もし、マイボーム腺の機能低下により油層分泌物が減少すると、水層が蒸発しやすくなりドライアイが生じると考えられています。
粘液層は涙液層の内層で直接角膜を覆っています。結膜傷害や角膜の上皮傷害によりムチンが欠乏すると角膜表面が疎水性となり、涙液水層がうまく広がらなくなりドライアイが発生します。
涙液欠乏タイプ | 涙液蒸発タイプ |
---|---|
涙液量の低下 | マイボーム腺の機能低下 ムチン欠乏・機能低下 眼瞼異常 |
ドライアイの分類
ドライアイの診断は身体検査、問診、涙液試験、生体染色(フルオレセイン、ローズベンガル)、涙液層破壊時間検査および眼表面に関連するコンポーネント(眼瞼、結膜、涙液、瞬膜、角膜)の観察等により総合的に診断します。
一般診療と同様に全身的な身体検査をおこない、眼以外に疾患がないか検査を進めます。
乾性角結膜炎では好発犬種が報告されているので参考にしてください。
特に使用している点眼薬が角膜上皮傷害を引き起こし二次的にドライアイを作り出している可能性もあり、点眼している薬剤や期間などの既往を問診します。その他、過去に瞬膜腺を外科的に切除していないかも重要となります。
1)検眼鏡検査
検眼鏡検査では、眼表面に関連するコンポーネント(眼瞼、結膜、涙液、瞬膜、角膜) をスリットランプまたは拡大鏡を用いて観察します。
眼瞼は位置異常、睫毛異常、眼瞼縁のマイボーム腺開口部、眼瞼欠損の有無および閉瞼の状態などを観察します。
また、瞬膜は表裏の観察、角膜は透明性、血管分布、曲率半径、涙液三角(涙液メニスカス)等を注意しながら観察します。
2)涙液の量的検査
涙液の量的検査には涙液検査があります。
これはSchirmerテスト法と呼ばれています。
Schirmerテスト法の判定は≦5mm/minは重度涙液減少、6-10mm/minは軽度涙液減少、11-14mm/minは涙液減少の疑い、≧15mm/minは正常です。猫では16.92± 5.73mm/minが正常と報告されています。
涙液の質的検査にはBUT(tear break-up time:涙液層破壊時間)があります。
BUTの判定は、正常眼では20秒以上、異常眼では5-10秒以下と報告されています。
ドライアイの診断で重要な角結膜の傷害は、通常生体染色をおこなわないと観察でき ません。
一般的に生体染色に用いられる色素として代表的なものは、フルオレセインとローズベンガルがあります。
フルオレセインは角膜上皮のバリアー機能を反映し、角膜上皮欠損部位および角膜上皮欠損はみられないが結合の弱い細胞間隙を染色します。
一方、ローズベンガルはムチンの分布に反映しており、ムチンでコートされていない角結膜上皮の細胞を染色します。
ドライアイは、涙の量が少なかったり、涙の質が悪くなって起こりますが、それ以外にも眼瞼、角膜、結膜を含む眼表面におこるさまざまな疾患が関連してドライアイがおきます。治療の基本は涙の三つの構成成分である、油層、水層、粘液層を正常に近づける ことです。
このため、状態に応じて、数種類の点眼薬を併用しますが、一生治療を継続しなければならないこともあります。
ドライアイの治療には、涙液の補充のため人工涙液がよく用いられます。
人工涙液は長期に、頻回に使用することが多いため、人工涙液中に防腐剤の入っていないものを基本的には使用します。人工涙液はどのタイプのドライアイにも適応可能です。
涙には、タンパク質やビタミンAなど、目の表面の細胞に必要な成分が含まれていますが、特に症状が重い場合、これらの成分が目の表面に供給されず、傷がなかなか治りません。
私どもの病院は、血液の成分が涙に近いことから、動物自身の血清から点眼液を作り、 涙の成分を補う治療を行っています。
サイクロスポリン点眼液
ドライアイの中には免疫の異常により、涙腺を攻撃し破壊して起こるものがあります。
サイクロスポリンは免疫反応を抑制し、具体的にはリンパ球浸潤による涙腺破壊を抑制 してくれます。
また、同時に涙腺刺激作用を持っており、涙液量を増加させることができます。
しかしながら、完全に涙腺が機能していないタイプのドライアイでは有効ではありません。
ピロカルピン経口投与
涙腺は副交感系支配下にあり、涙腺が残存されていればピロカルピンの経口投与に反応します。サイクロスポリンの登場以来、あまり使用されなくなりましたが、神経原性の涙液欠乏タイプでは効果があるといわれています。
以前はムチンと同じ成分の点眼液はありませんでした。
現在では、2種類の点眼液があり、眼表面の層別治療が可能となりました。
涙液の外層は、マイボーム腺より分泌されています。
マイボーム腺に炎症、閉塞などが起こり、マイボーム腺からの分泌が減少すると、涙液は蒸発しやすくなり安定した涙液を保持できなくなります。
治療としては、抗生物質の点眼、内服、眼瞼の温熱療法、眼瞼の洗浄、外科的切除などをおこないます。
二次的な感染予防のために抗生物質点眼、杯細胞の抑制のためにステロイド剤点眼、 さらに過剰な粘液溶解のためにアセチルシステイン点眼などを併用することがあります。