眼球内には房水(ぼうすい)が循環していて、産生と流出は一定に保たれ眼球内部の圧 (眼圧)が維持されています(図1)。
緑内障とは何らかの原因で房水の流出が阻害されたために眼圧が上昇した状態をいいます。
眼圧の上昇が長期に続くと視神経が障害されるために失明することがあります。
房水は毛様体で産生され、水晶体前面から瞳孔を通り角膜と虹彩の根部(隅角)にある櫛状靱帯(くしじょうじんたい)から流出します。櫛状靱帯から流出した房水は強膜静脈叢(きょうまくじょうみゃくそう)、房水静脈叢(ぼうすいじょうみゃくそう)を経て眼外の血管へ出ていきます。この流出経路を線維柱帯流出路と言います。もう一つの流出経路としてブドウ膜と強膜の間から流出するブドウ膜強膜流出路があります。
房水はこれら二つの経路から流出し眼圧が維持されています。(図1)
緑内障は先天性緑内障、原発性緑内障(原因不明)、他の病気が原因でおこる続発性緑内障に分けられます。
先天性緑内障は先天的に隅角に異常を有するために起こる緑内障です。
原発性緑内障は眼球に原因となる他の疾患のない緑内障で、犬種と関係しており、アメリカン・コッカー・スパニエル、シベリアン・ハスキー、バセット・ハウンド、スプリンガー・スパニエル、柴犬などの犬種で多くみられます。
図2: 隅角所見
図3: 閉塞隅角緑内障
図2: 隅角所見 図3: 閉塞隅角緑内障
続発性緑内障は他の眼疾患に続発して起こる緑内障です。ブドウ膜炎、水晶体脱臼、腫瘍等が続発性緑内障の原因となりやすく、これらの病気により房水の流出路が障害されるために眼圧が上昇し緑内障がおこります。
緑内障の他の分類として隅角所見(図2)による分類があります。
開放隅角緑内障は、隅角は広いがその機能が悪く、房水排出が傷害されて起こる緑内障です。
開放隅角緑内障はその初期には眼圧の上昇が軽度ですが、徐々に進行し最終的に閉塞隅角緑内障に進行します。
緑内障の臨床症状(表1)は眼圧上昇の程度により種々であり、また、その進行に伴い多くの症状が引き起こされる病気です。
特に、結膜充血、上強膜充血、流涙症、疼痛(とうつう)または羞明(しゅうめい)等は他の疾患でもよく見られる症状ですので注意が必要です。逆にいえば緑内障の好発犬種で、結膜炎症状が見られた場合には緑内障を疑う必要があります。
下記に一般的な緑内障の症状を挙げておきます。
表1:緑内障の臨床症状
緑内障の治療法には内科療法と外科療法があります。通常、内科療法のみでは維持できないことが多く、外科療法を加える必要があります。
緑内障と診断された場合には早急に上昇した眼圧を内科的に減圧してあげる必要があります。それと同時に速やかに眼科専門医と連絡をとりましょう。
緑内障は緊急疾患です!!
早期発見、早期治療が緑内障の基本となります。
また原因が原発性緑内障であるならば両眼性に発生することが知られています。
従って正常眼に対しても予防的治療を開始したほうが正常眼の発症時期を遅らせることができます。
浸透圧利尿剤を点滴し硝子体を脱水させることにより眼圧を低下させます。
20-30分後に眼圧低下が起こり、効果は4-6時間持続します。
反復する場合には脱水に注意します。
房水産生を促す炭酸脱水酵素を阻害し、房水産生を抑制します。 経口投与により、房水産生を30-40%減少させ、約8時間持続させることができます。
急速に眼圧を降下させるために炭酸脱水酵素阻害薬の注射製剤を使用することもあります。 この製剤の副作用としては代謝性アシドシス、嘔吐、パンティングおよび沈欝などがみられることがあります。
内服薬の炭酸脱水酵素阻害薬は全身的に副作用を見られることがあり、そのためにより安全で副作用の少ない点眼剤が開発されました。
副作用として点眼痛、結膜充血などが見られることがあります。
ブドウ膜強膜経路からの房水流出を促進させ眼圧を低下させます。
犬に対しては効果がありますが、猫の眼圧を低下させるためには、より高濃度の製剤が必要です。
副作用として、点眼痛、羞明、結膜の充血、縮瞳が見られることがあります。
β -遮断剤は房水産生を抑制し、瞳孔径に影響を与えず眼圧を下降させます。 副作用として、全身的には徐脈、血圧低下、局所的にはアレルギー作用、角膜上皮に対する細胞毒性、涙液分泌減少、角膜上皮創傷治癒遅延などが見られることがあります。
心臓疾患を持っている場合には注意が必要です。
緑内障の外科治療に関しては原発性緑内障あるいは続発性緑内障、またその時点で視覚があるのかないのかなどを考慮した上で決定します。
本来の手術目的は眼圧を下げ、視覚を維持することですが、残念ながらすでに失明している場合には眼圧を下げることを目的に手術を行います。覚えていただきたいのは緑内障の手術は、一度手術を行えば完治するものではないこと、 繰り返し手術が必要な場合もありえること、加えて手術後も降圧剤の点眼を継続する場合があるということです。